main_column

骨折の予防は可能なのか?(骨粗しょう症治療のすすめ)

WHO(世界保健機関)では「骨粗しょう症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」と定義しています。簡単に言うと骨粗しょう症は、骨密度が低くなったため、骨がもろくなり、骨折しやすい状態になる病気ということです。わが国では人口の高齢化の進行とともに、要介護状態になる高齢者が増加しています。厚生労働省の調査では骨折・転倒は要介護要因の約10%を占め、高齢による衰弱を除くと認知症、脳血管疾患に次ぐ第3位となっています。骨粗しょう症が原因で起こる骨折の中でも、特に大腿骨近位部骨折(太ももの付け根の骨折)、脊椎圧迫骨折(背骨の骨折)は骨折後の経過がよくないことがわかっています。これらの骨折を受傷すると、骨折をしない人に比べて死亡する危険性が5~8倍上昇することが明らかになっています。これらのことより、骨粗しょう症の進行を予防することが重要であることがわかっていただけると思います。
骨粗しょう症の治療を行うことで、骨折を防ぐことが可能なのでしょうか?

骨粗しょう症の治療を適切に行うことで、骨折を予防することは可能です。
高血圧や糖尿病などの治療の目的は、血圧を下げることや血糖値を下げることだけではありません。より重要な目的は、これらの疾患が原因で起こる心筋梗塞や脳血管障害の発症を予防することです。同様に、骨粗しょう症の治療の目的は骨密度の増加だけではなく、骨粗しょう症が原因で起こる骨折の予防です。有効な骨粗しょう症治療薬を用いることによって骨折を予防できることは、それぞれの薬の臨床試験で明らかになっており、薬や骨折部位によって差はありますが、骨粗しょう症の治療を受けている人は、治療を受けていない人に比べると骨折の危険性が約30~90%少なくなります。骨粗しょう症は早期に治療を行えば、決して恐ろしい病気ではありません。数多くの有効な骨粗しょう症治療薬があり、適切な治療を行うことによって、骨粗しょう症が原因で起きる骨折を予防することが可能です。そのためには患者さんの骨粗しょう症の重症度、年齢、他の病気の有無などを考慮して、適切な治療を行うことが重要です。現在、自覚症状がなくても、骨粗しょう症が心配な方は、お近くの整形外科を受診されることをお勧めいたします。

image0

あなたの若さと美しさを保つために、骨密度測定検査を受けましょう!

女性の姿勢は年齢を経てくると、右の図のように変化していきます。背中が丸くなってくると、逆流性食道炎が起こりやすくなり、胸やけのせいで、お食事をおいしくいただけなくなってしまうかもしれません。肺の機能も低下してきますので、運動をすると、息切れなどの症状が出ることもあるでしょう。旅行、ショッピング、お食事などでの外出が不自由になってしまうかもしれません。そうじゃなくても、背中が丸くなってくると、何だか老け込んだような気分になってしまいます。背中が丸くなってくるのは、骨粗しょう症が原因で起きる背骨の骨折が原因となっていることが多いのです。

image1

雑誌、新聞、テレビで骨粗しょう症という言葉は耳にされたことはあると思います。わが国には1000万人以上の骨粗しょう症患者がいるといわれています。しかし、その中で治療を受けておられる人は骨粗しょう症患者のうち20~30%程度と推定されています。実際に、骨粗しょう症の患者さんに多い大腿骨近位部骨折(太ももの付け根の骨折)、脊椎圧迫骨折(背骨の骨折)、橈骨遠位端骨折(手首の骨折)、上腕骨近位部骨折(腕の付け根の骨折)で、私のクリニックを受診される患者さんの多くは骨粗しょう症の治療を受けておられません。骨粗しょう症は年のせいなんだから、よくならないとあきらめている方がたくさんいらっしゃいます。近年、骨粗しょう症の治療薬は目覚ましい進歩を遂げており、数々の有効な薬剤の使用が可能になりました。これらの薬剤の臨床試験では、骨粗しょう症が原因で発生する骨折を予防できることも明らかになっています。しかし、多くの有効な治療法が出てきたとはいえ、重症の骨粗しょう症になってしまうと、治療法が限られてしまうことは事実です。高血圧、糖尿病などの生活習慣病やがんなどでは検診が行われ、早期発見が大切であることは皆さんもご存知でしょう。

image2

骨粗しょう症でも、早期発見が大切です。骨粗しょう症では、痛みなどの自覚症状があることは多くありません。「背が低くなった」、「背中が曲がってきた」といったことは骨粗しょう症で起きる体形の変化である可能性があることを最初に述べました。既に、このような変化が起きている方は骨密度測定検査を受けることを強く勧めます。また、女性では、閉経期に一度、65歳以上の方は年に一回程度、是非とも骨密度測定検査を受けていただきたいと思っています。女性の場合、閉経後に急激な骨密度の低下が起きることが明らかになっており、60歳代の女性の約3人のうち1人は骨粗しょう症患者であることが疫学調査で分かっています。70歳以上の方ではさらにその割合が高くなります。男性の骨粗しょう症はあまり多くありませんが、75歳以上の方は一度検査を受けてみることをお勧めします。

image3

当院では、2015年6月より骨密度測定装置を導入しております。腰椎(腰の骨)、大腿骨(太ももの付け根)の測定が可能な機種です。骨粗しょう症の診療ガイドラインでは、骨粗しょう症の診断と治療のためには、腰椎と大腿骨の骨密度測定を行うことが強く推奨されています。

検査に伴う痛みはありません。また、測定時間は数分ほどです。(結果解析にお時間をいただきますが、待合室でお待ちいただき、10~20分以内に結果は出ます)

検査費用は健康保険の自己負担割合が3割の方で1,350円、2割の方で900円、1割の方で450円です。(この他に初診料、再診料などが加わります)

image4

整形の薬は本当に「強い」のか?

column_img_1

整形の薬は強いから…」という理由で非ステロイド性消炎鎮痛剤(痛み止め)を服用されない患者様がかなりいらっしゃいます。「強い薬」。どのような薬が強い薬なのでしょう?よく効く薬も副作用の強い薬も「強い薬」といえるかもしれません。患者様が不安になる理由はおそらく非ステロイド性消炎鎮痛剤によって引き起こされる胃への副作用や眠気などの症状のためなのではないでしょうか。

不必要な薬を服用する必要はありませんが、医師が必要と判断した薬は服用していただきたいものです。非ステロイド性消炎鎮痛剤は俗に「痛み止め」と考える患者様が多いようです。
「ただの『痛み止め』なら服用しない。この薬で病気や怪我が治るわけじゃないんでしょう?整形の薬は強いらしいし…」と考えて薬を服用されない方がかなりいらっしゃいます。医師が非ステロイド性消炎鎮痛剤を処方するときは鎮痛作用だけでなく、炎症があり痛みの原因となっている部位や怪我をした部位の炎症を抑える作用を期待しています。ですから、不都合がない限りは薬を服用していただければと思います。

医師は患者様の既往歴や現在服用している薬の種類などをうかがった上で患者様の病状に合わせた薬を処方しています。副作用や他の薬との相互作用が予想される場合にはそのような薬は処方しないようにしています。不安な場合は医師に質問してください。
非ステロイド性消炎鎮痛剤の胃に対する副作用は薬品メーカーの努力によってかなり少なくなってきています。とはいっても、まったくないわけではありません。特に胃潰瘍十二指腸潰瘍がある方では病状が悪化する可能性があり、基本的には処方出来ません。
もともと胃が弱い方でも非ステロイド性消炎鎮痛剤を服用することで、吐き気や胃痛が現れることがありますが、このような症状は胃粘膜保護剤などを非ステロイド性消炎鎮痛剤と一緒に服用することである程度は抑制することが可能です。

気管支喘息の患者様は非ステロイド性消炎鎮痛剤を服用することによって喘息発作が誘発される懼れがあるため、気管支喘息の患者様には非ステロイド性消炎鎮痛剤を処方することは出来ません。
しかし、処方可能な薬もありますので、主治医に相談して下さい。お薬のことでわからない事があれば、自分で勝手な判断をせずに医師や薬剤師に相談されることをお勧めいたします。

column_img_2

冷湿布と温湿布の使い分けは?

column_img_3

外来診察の場でよく患者様から受ける質問に「今の私の状態には、温湿布と冷湿布どちらがよいのですか?」というものがあります。
私は「捻挫、骨折、打撲のような外傷の急性期には冷湿布を用い、慢性的な腰、肩、膝などの痛みには温湿布を使用してもよいと思います。ただし、慢性的な痛みに対しても『冷湿布を用いた方がいい』とおっしゃる方がいますので、慢性的な痛みに対しては使用して快い方を使って下さい」と答えることにしています。

湿布はパップ剤と呼ばれている製剤で、温感パップ剤と冷感パップ剤というものがあります。「温感」、「冷感」とあるように温かく感じる、冷たく感じるパップ剤ということです。患部の冷却効果や保温効果はほとんどありません。

冷感パップ剤には清涼感を感じさせる物質が、温感パップ剤には温かく感じさせる物質が膏体に練りこんであるだけで、実際の皮膚の温度は 0.5℃程度しか変化しないとされています。特に外傷などで炎症を抑えるために冷却する際は、冷湿布だけでは不十分であることを認識してください。氷枕などでクーリングを図ること大切です。また、外傷の急性期に温湿布を使用することは避けてください。

さらに、皆さんが冷湿布と考えられているものの中には経皮吸収型鎮痛消炎剤といわれているものがあります。膏体の中に鎮痛消炎剤が含まれています。私たち整形外科医が日常的に処方する冷湿布の大半がこのタイプです。

column_img_4